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高知家庭裁判所 昭和59年(少)496号 決定 1984年7月06日

少年 C(昭○・○・○生)

主文

少年に対し強制的措置をとることは、これを許可しない。

少年を高知保護観察所の保護観察に付する。

理由

本件非行事実

少年は満一四歳未満の者であるが、

一  昭和五八年六月一六日当裁判所において虞犯、触法(窃盗、同未遂)保護事件につき教護院送致決定を受け、同日高知県立a学園に収容されたところ、即日無断外出し、同月二七日警察官の協力を得た同学園職員により保護され再収容されたが、翌二八日再度無断外出し、その後保護者より家庭引取りの強い希望が出されたため、同年七月一四日措置解除がなされたものの、同年九月になると怠学を始め、同年一〇月から全く登校せず、ゲーム機遊びに凝つて、夜間外出、外泊を続け、家金持出、母親に対する現金強要を繰り返し、昭和五九年二月二七日には高知市内で自転車窃盗事件を起こし、同年三月まで不登校を続け、この間保護者の監護に従おうとしない状況であつて、このまま放置すれば、少年の性格、行状及び環境に照らし、将来遊興費欲しさの余り窃盗等の刑罰法令に触れる行為をする虞がある、

二  Aと共謀し、昭和五九年五月一〇日午後八時ころ、高知市○○×丁目×番×号先路上において窃盗犯人が遺留したものと認められるB所有の原動機付自転車一台(時価五万円相当)を拾得しながら、正規の届出をせず、これを自己の乗用に供するつもりで横領した

ものである。

適条

上記一の事実につき 少年法三条一項三号イ、ロ、ニ

同二の事実につき 刑法六〇条、二五四条

処遇の理由

本件送致書(二通)によれば、本件送致は、高知県立○○児童相談所長が本少年につき児童福祉法二七条の二、少年法六条三項により強制的措置の許可を求めているものであるが、同児童相談所長作成の昭和五九年六月三〇日付上申書によれば、予備的に児童福祉法二七条一項四号、少年法三条による審判をも求めているものと解される。

そこで判断するに、本件非行事実に、調査及び審判の結果により認められる少年は自己中心的、わがまま、強情で、いつたん「こう」と言い出すと、他の者の言に全く耳を傾けず、現実に可能なことなら周囲の迷惑を考えずに実行するという行動傾向を有していること、少年は相変わらず学業と遊びとの均衡を保つことができないこと、父親は遊び好きで、気ままな非家庭的な人で、少年に対しても確たる教育方針はなく、その時の気分次第で少年に対処していること、及び母親は几帳面で、気丈、勝気な人で、少年に対して口うるさく注意して来たが、そのために少年は母親に対する反発を増々強めていること、また一件記録によれば少年は昭和五九年二月二〇日無免許運転事件を、同年五月一〇日原動機付自転車横領事件(本件非行事実二)を起こしており、前記のように少年は凝ると強迫的とも思える程、同種行為を反復することがあるので、バイク盗・無免許運転の再非行の危険性もあることをあわせ考えれば、この際少年を強制的措置をともなつた教護院へ収容することも、あながち不必要、不当な措置であるとは思われない。

しかしながら、調査及び審判の結果によれば、少年は昭和五九年三月ころから安定に向い、同年四月からは正常に登校するようになり、相変わらずゲーム機遊び、それによる濫費、母親への執ような金員の要求、夜間外出はあるものの、その程度は従前に比して好転しつつあること、及び少年は同年五月ころから麻雀にも凝り始め、次第にゲーム機遊びから麻雀に傾斜しつつあり、同年六月中旬ころから再び不安定な登校状況にあるものの、少年自身従前の行状を続けているとやがて少年院に送致されることになるので、きちんと登校し、無断外出や家金持出等はしないようにしなければならないとの認識を一応有していることが認められること、また仮に本件の強制的措置を許可しても、少年の性格及び従前の行状からすれば施設からの逃走は必至であつて、はたして教護の効果をあげ得るか疑問であること、更に少年が一四歳間近であるうえ、両親が現段階での施設収容を希望していないことに照らせば、現段階において強制的措置をとることは妥当ではなく、少年を今一度監護の意思を有する保護者に委ねるのが相当である。従つて、少年に対し強制的措置をとることを許可しないこととする。

そして以上の事情、ことに保護者の監護能力には不安があるうえ、少年の前記行動傾向の矯正は一日にして得られるものではないことを勘案すれば、この際第三者の適切な指導援助が必要であると認められるので、少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を適用して、少年を高知保護観察所の保護観察に付し、相当期間専門家による周到な指導を受けさせることとする。

なお、当裁判所は、少年を高知保護観察所の保護観察に付することとしたので、本件を送致して来た高知県立○○児童相談所長に事件送致決定をする必要はないものと考える。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 長井浩一)

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